2018/07/04

「うがい」「嗽」「鵜飼」

“うがい“ってどうなの?

皆さん、“うがい“ってします?残念ながら私はうがいをする習慣がありません。最近、特に若い人達の間では、うがいをすることが減っているような気もします。一昔前は病院の診察室とか医局の手洗いにはうがい液(だいたいはイソジン!)が置いてあって、時々うがいをする医師や看護師を見かけたものですが、今はほとんど見かけないようになりました。やはり人前でうがいするというのはマナーとかエチケット上あまりよろしくないという風に考えられるようになってきたためでしょうか。スターウォーズのチューバッカの声を真似するにはうがいをするように真似するとよく似るとかいうことも聞きます。「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」でチューバッカ(ヨーナス・スオタモ)と共演したエミリア・クラークのチューバッカの声真似がうがいにしか聞こえないとか話題になっていました。
チューバッカ
実はうがいをする習慣というのは日本特有のものなんですね。漢字では「嗽」と書きます。まあエチケットだとかチューバッカとかの話聞くと欧米ではやらないだろうなと思います。Wikipediaによると、『「うがい」の語源は、鵜飼であり、鵜に魚を飲み込ませ、その後吐き出させる様子が似ていることから、「うがい」と呼ばれるようになった。1444年(文安元年)に成立した国語辞典『下学集』には「鵜飼嗽也」とある。うがいは、日本では古くは平安時代から行われてきたとされている。』とあります。また大日本住友製薬の健康常備学vol.77にも同じような記述が見られます。私的にはWikipediaに限らずインターネットの情報は必ず吟味するようにしているのですが、今回はこれがなかなか難しかったんです。誰かご存知なら教えてください。
さて本論ですが、うがいって風邪やインフルエンザの予防に効果はあるんでしょうか?私も、たぶん皆さんも、小さい頃は、「外から帰ったら手洗って、うがいしなさい」とよく言われたのではないでしょうか。正直、今でも外来の時とかに子供達に言っています。しかし翻って自分がうがいしているかと考えてみるとしてないんですね。ですから責任上、うがいが風邪やインフルエンザの予防に本当に効果があるかどうかは検証しないといけないと考えました。
2000年以降医学的根拠のレベルの高いいくつかの論文が発表されています。Satomuraらは2005年にランダム化比較試験の結果、水でのうがいが、うがいをしないグループやポビドン・ヨードでのうがいのグループに比べても有意に上気道感染を減らすことを報告しています。この論文はいろいろな所で引用されており、先駆的な研究です。それによると18歳から65歳の健康なボランティアをランダムに3群(特に介入しない群、水によるうがいをする群、ポピドン・ヨードによるうがいをする群:なおうがいをする群の人には一日3回以上のうがいを促す)に分け、60日間のフォローを行っています。何も介入しない群、水によるうがい群、ポビドン・ヨードによるうがい群のincidence rateは、それぞれ0.26, 0.17, 0.24 episodes / 30 person-daysとなっています。「episodes / 30 person-days」を少し説明しますと、人数×日数が30となる人数および日数の間に起こったエピソード(この場合は上気道炎の罹患)の回数を示します。例えば0.26 episodes / 30 person-daysならば、例えば1人が30日間で、あるいは2人が15日間などで上気道炎に罹る回数が0.26回と言うことになります。うがい
さすがに子どもでの検討は難しいだろうと思いきや、ありました!観察研究ではありますが、Nodaらが2012年に2歳から6歳の何と19,595人の幼児の20日間におよぶ研究結果を報告しています。それによると少なくても1日1回うがいをするグループではodds ratio 0.68で有意に発熱が少なかったとのことです。なおかつ何でうがいをするかということで検討してみると、緑茶が最もodds比が小さく0.32、続いてアルカリイオン水やオゾン水などの機能水で0.46、単なる水で0.70となり、緑茶が最も効果的だとなっています。
またSakaiらはうがいは上気道炎を予防するには費用対効果が良い方法であるとの報告をしています。まあ日本では水道水であればほとんどお金はかかりませんしねえ。また直近では2016年にIdeらがメタ解析により緑茶による「うがい」がインフルエンザ予防に対して効果があるとしています。問題は、やっぱり「うがい」に関する医学論文は日本からのものが非常に多いんですね。2016年発表のIdeらの論文でも解析対象となった5論文は全て日本人が筆者の論文です。また、医学論文の検索ができるPubMedで、”gargling”を検索すると183の論文がヒットしますが、新しいものから順に数えて行っても半分以上は日本人の筆者のようです(全部は数えていませんが)。”gargling”+”infection(感染)“では39論文中21論文が、”gargling”+”influenza”では17論文中12論文が日本人の筆者です。そして研究対象となっているのは日本人ですから、「うがい」に親和性が高い人達を対象にした研究ということになってしまうのかなあと思います。誤解がないように言葉を追加しますが、決して論文を否定しているわけではありません。全ての状況で普遍的に正しいかどうかはちょっと立ち止まって考えないといけないのかなと思うのです。また反面「うがい」をする習慣のある日本人からその有用性について世界に向けて発信していくという意義もあるのではないかと考えます。
最後に緑茶とイソジン(つまりポピドン・ヨード)のうがいについて。緑茶にはカテキンが多く含まれ、健康に良いという話は聞かれたことがあるでしょう。カテキンは実験室レベルではインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス作用があることが報告されています。では実際のヒトの世界ではどうなんでしょうか?まだその辺はこれからということだと思います。今回ご紹介したような研究が発展していくとその有効性が証明されていくのかも知れません。そしてイソジン(つまりポピドン・ヨード)ですが、以前は消毒と言えばイソジンって感じでしたが、今はそうでもありません。そもそもポピドン・ヨードが消毒効果を発揮するためには適切な濃度と接触時間が重要です。なので、水や唾液で薄まり、なおかつ流れ落ちて行きやすい液体ですから咽頭粘膜に長くは付着し続けることが期待できないのではないかと容易に推測されます。そしてその成分としてのヨードは摂取量が多くなると甲状腺の作用を低下させます。実際にそのような症例報告も散見されます。過ぎたるは及ばざるが如し。
まとめると。
「うがい」は、風邪やインフルエンザ予防にある程度有効
 緑茶が優れているようだが、普通の水でも効果がある
 ポピドン・ヨードでのうがいは効果が乏しいか、あるいは長期間頻回はかえって問題


文献
Satomura K, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005;29:302-7
Noda T, et al. Gargling for Oral Hygiene and the Development of Fever in childhood: A Population Study in Japan. J Epidemiol 2012;22:45-49
Sakai M, et al. Cost-effectiveness of gargling for the prevention of upper respiratory tract infections. BMC Health Service Research 2008;8:258
Ide K, et al. Effect of gargling with tea and ingredients of tea on the prevention of influenza infection: a meta-analysis. BMC Public Health 2016;16:396

スポンサーサイト
2018/05/25

WHY ジャパニーズピーポーは病気でもないのにマスクしてるんだあ~

Why ジャパニーズ・ピーポは病気でもないのにマスクしてるんだあ〜?

私はマスクが大嫌いだ!!
なぜだか、わかりますか?
それはね。息苦しいからです!!医師の仕事の多くは実は話をすることなのに、話をしていると口の中に引き込まれて気持ち悪いし、きちんとすればするほど息苦しくて口の中に入って来る。だから私はマスクをできるだけしないのです。
なあんてね!
マスクが嫌いなのも、できるだけしないのも本当。でも理由はうそ!
マスクしてても別に息苦しくないよって思ったそこのあなた!きちんとしています??
今日本で最も普及しているマスクは、サージカルマスクと言います。コンビニとかドラッグストアで売っているマスクの多くはこのタイプで、たぶん皆さんもこのサージカルマスクをされることと思います。もともと外科医が手術の時にしていたことから、外科用つまりサージカルマスクと言いますが、世界的にはメディカルマスクと呼ばれています。ご存知のようにマスクは、鼻と口の両方を覆って、上辺の針金を鼻の形に沿って折り曲げて、できるだけ顔にフィットさせて使います。こうやってきちんと使うと、ちょっと大きく息を吸ったり、話す時に息継ぎが大きかったりすると吸い込まれますよ。そうならないあなたは使い方があまい!!たまに鼻の穴が出ている人とかを見かけると、病院内の感染予防対策の責任者をしている私としては見過ごしならぬ!となります。君は、鼻の穴を閉じられるんか?!と突っ込みたくなります。だってそうでしょう?口は閉じていても、鼻の穴は閉じられないでしょう!!マスクは鼻を守るためにするんです。病気がうつらないようにするには、病原体の侵入経路になる穴を守らないといけませんし、病気をうつさないようにするにはくしゃみしたときに飛沫をばらまく口と鼻をふさがないといけません。
さて、私がマスクが嫌いな本当の理由は、マスクしている人の顔を覚えるのは至難の技だからです。って言うか、マスクしてる人の顔って覚えられます??お願いだから、病気でもないのにマスクするのはやめてと言いたいくらいです。記憶に新しい?少なくても私にとってはついこの前の2009年春から夏(これってもしかしてすごい昔??)に社会問題にもなった“新型”インフルエンザの時には、もうみんながみんな病気でもないのにどこにいってもマスクをした人ばかりでした。あの時は子どもさんを連れてくるお母さんもマスクをしてない人の方が珍しかったのです。おなじみの方なら良いのですが、初対面とかですとその後お会いしても全然顔が思い出せなくて本当に難儀しました。もともと顔を覚えるのは苦手ですが、それでも何とかお母さん達のお顔は覚えようとはしてるんです。でも目の部分だけでは覚えられませんわ。顔がわからないようにするために目の部分だけ黒く隠してある人相の逆バージョンですからね。これが私がマスクが嫌いな最大の理由。
そして次は、表情がわからなくなることです。もちろん話をしている相手の表情がわかりにくくなって私の話をどう受け取っているのかもわかりにくくなるっていうこともあります。でも一番気を付けるのは、こちらの感情が相手に伝わりにくいということです。私たちは子ども相手に仕事していますので、診察の時に先ず考えることは子どもを怖がらせないためにはどうすれば良いかですね。特に小さな子の場合にはにっこり微笑んであげる、これが大事です。経験的に同じように微笑んであげてもマスクをしてない時としている時では全然反応が違います。特に2〜3歳くらいまでの子では。
そして、きちんとしてないマスクが気になって仕方ないということです。一般の方ならともかく医療者が間違ったマスクのしかたをしていると、マスクの意味理解してるの?と。どうせするなら、正しくしようや!

実は病気でもない人がマスクをするのは、世界的には極めて奇妙なことで、東アジア、とりたて日本で見られる奇妙な習慣なんです。
mask003JAPANTODAY.jpg
日本の若い人たち、とりたて若い女性は、感染予防と言う目的以外でマスクを着用するそうで、「小顔に見える」とか「ミステリアスに見える」とか言って、一種のファッションアイテムなんだそうです。昨年秋にはZIP!で欅坂46が出て三次元マスクとやら言うものを宣伝していました。「本当の自分を見られたくない」とか他にも理由はいろいろあるそうです。「伊達メガネ」ならぬ「伊達マスク」ですか!もし興味があったら、上の記事を読んでみて下さい。それにしても高機能を謳うマスクをメーカーバックアップでファッションアイテムとして宣伝するとは!!なんともなあ、です。てなわけで、余計に嫌いです。
しかし好き嫌いで判断したり、世界的に奇妙だからという理由だけで、それをしないというのはあるべき姿ではありません。そこで勉強してみました。
マスクの有効性を検討した研究が結構あります。それらの研究のお話をする前に、これからのお話の中でよく出てくる用語、取り立てマスクの種類について整理しておきます。マスクにはだいたい3種類あるのをご存知ですか。
えー っと。普通のマスク、口(だけ)マスク、また使おうと思って肘に付けてる肘マスク、・・・・とか考えてるあなた!!マスクは付け方は一つしかありませんよ。
マスクの付け方_convert_20180525091229

3種類というのは、布マスク(cloth mask; クロスマスク)、外科用マスク(surgical mask;サージカルマスク、またはmedical mask)、そして空気感染対策用のマスク(日本ではN95マスクと言う名称で知られていますが、一般名はrespirator maskと言います)です。以下、順にCマスク、Mマスク、Rマスクと略すことにします。布マスク!(Cマスク)懐かしいですね。今や日本ではほとんど見なくなりました。でもたまに小学校とか幼稚園の子が布マスクして小児科外来に来ると、昔を思い出します。世界的には今でも東南アジアとかでは洗濯して使われているそうです。経済的な問題なんでしょうね。
それともう一つ大事な話です。マスクの性能とマスク着用の効果は別けて考えないといけません。マスメディアでは、ウイルスや飛沫の捕集効率の高さを宣伝する内容がよく見られます。それこそ皆さんよくご存知の「ためしてガッテン」でもやってました。正確にマスクを着用することによって飛沫の飛散を劇的に減らすことができたという内容です。確かに間違ってはいません。一般の方は、マスクをきちんと着用すると飛沫の拡散や吸入量が減るので感染率が減る、つまりマスクの効果があると受け取ると思いますが、実はこれは科学的医学的根拠ではありません。マスク着用の感染予防の効果を立証するためには、マスクの着用という以外の条件が同じであるマスクをした人のグループとしなかった人のグループの感染率を統計的に調べて、マスクをした人のグループの感染率がマスクをしなかった人のグループの感染率より統計的に有意に低いことを確認して初めて医学的根拠があると言えるのです。

一つ理解していただかないといけないことは、感染率の検討には、その検討の行われている集団により結果が違ってくる可能性があることです。つまり非常に感染のリスクの高い集団で行われた検討と感染にさらされるリスクの低い集団での検討は同じように論じてはいけないということです。そのことを念頭に置きながら、文献を引いて勉強してみましょう。

1.先ずは、医学的根拠となるレベル(エビデンスレベル)の最も高い研究手法としてのメタ解析の論文です。
(Saunders-Hastings P, et al. Effectiveness of personal protective measures in reducing pandemic influenza transmission: A systematic review and meta-analysis. Epidemics 2017;20:1-20)2009年のインフルエンザ・パンデミック時の検討で非常に新しい報告です。
これによるとマスクの効果は、あったとする報告となかったとする報告が混在しているで、有意に効果があるとは判断できなかったという結果です。しかし、ランダム化比較試験では有効性が示唆されるとされています。

2.次に医療機関でのマスクの効果を評価した研究を見てみましょう。最近の研究の中から、エビデンスレベルの高いクラスターランダム化比較試験を見てみます。(MacIntyre CR, et al. A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers. BMJ Open 2015;5:e006577)
この研究は、Cマスクがまだ比較的よく使われているベトナムで行われたもので、この研究によると、Mマスク群とコントロール群(特にマスクを着用する着用しないことに介入しなかった群、マスクをするなというのは倫理的でないという理由からだそうです)には感染率に有意差はなかったとの結果です。詳細に見るとMマスク群の方が感染が少ない傾向にはあるようには見えますが。Cマスクは、むしろ感染のリスクを高めると言う結果です。使ってるうちにベトベトになる、ろ過効率が悪い、洗って再使用する、などがその理由として述べられています。箱買いすると1枚◯十円という日本ではやはりサージカルマスクを使うのが良さそうです。

3.家庭内ではどうでしょう?家庭で子どもが感冒に罹患してしまった場合に、大人が家庭でマスクをすることが感染を予防する効果があるかどうかという研究があります。(Maclntyre CR, et al. Face Mask Use and Control of Respiratory Virus Transmission in Households. Emerg Infect Dis 2009;15(2):233-241)
ウインターシーズン、つまりインフルエンザシーズンでの検討です。先ず最初に15歳までの子どもが感冒を発症した家族で、その家族には少なくても2人以上の大人がいる145家庭を、マスクをしない群(50家庭)、Mマスク群(47家庭)、Rマスク群(46家庭)に割り当てて検討したものです。結果は、次の通りです。①63.8%でウイルスを検出した(A型インフルエンザ13.5%、B型インフルエンザ4.9%など)。②3群間で、成人の感染の発生率に有意な差は見られなかった。③MマスクであれRマスクであれ、1日中またはほとんどマスクを着用していた場合には1日あたりの感染率を0.26倍に減らすことができた。この推定の95%信頼区間は0.09から0.77であり、上限が1.0より小さいので、常時マスクを着用している人の感染率の低下は有意である。④どちらのマスクがより効果的かどうかは決定できなかった。⑤ほとんどの時間しっかりマスクができていた人の割合は、1日目はMマスクで38%、Rマスクで46%だったが、その後割合は徐々に減少し、5日目にはMマスクで31%、Rマスクで25%まで減ってしまった。そのほかの人はほとんどマスクができていなかった。
どうやら濃厚接触のリスクが高い家庭で、子どもが感冒やインフルエンザに罹患してしまった場合に、ほとんどの時間にマスクをすることは、予防的効果はあることが示唆されるということのようですが、やはり問題は家庭でずっとマスクをしていることがなかなかできないということですね。
ここで「示唆される」という言い回しをしたのは、マスクをすること以外の衛生意識の問題が評価されていないためです。この研究を見てみると、あなた方はMマスクですよ、あなた方はRマスクですよ、と割り当てられても、しっかり遵守できる人と全然守れない人とがいることがわかります。当然、前者の人の方が衛生意識が高くて、手洗い・手指消毒・換気などのマスク以外の感染予防対策も怠らずなされている可能性が高くて、単純にマスクの効果とは言えないからです。

4.次に人混みに出かける場合はどうでしょう。毎年200万人以上が参加し、そのうち90%以上の人に一回は呼吸器症状が出て、呼吸器感染症のリスクは通常の数倍になると言われるメッカ巡礼での研究に対してのシステマチック・レビューがあります。(Barasheed O, et al. Uptake and effectiveness of facemask against respiratory infections at mass gatherings: a systematic review. Int J Infect Dis 2016;47:105-111)
このレビューでは、Mマスクはある種のなんらかの呼吸器感染症に対しては有効であるという結論を得ています。ある種のなんらかの呼吸器感染症という言い方がされているのは、レビューの対象となった研究での感染症の定義が、発熱、咳嗽、咽頭痛、嗄声、鼻汁とかいう感冒症状をもってそれとされているからです。特定の呼吸器感染症、例えばインフルエンザ、ではどうかというと、要検討とされています。
この検討は人混みと言っても大変な人混みとなるメッカ巡礼での検討ですから、単なる街歩きとかお買い物とかには適応できません。実際、市中でのMマスクの着用は、WHOもCDC(アメリカ疾病予防管理センター)もECDC(欧州疾病予防管理センター)も推奨していません。ただし、アウトブレイク時や、高齢者・妊婦・疾患がある人には推奨されています。

5.うつしてしまう可能性がある側としての検討、つまり感染のソース(源)のコントロールとしてのマスクの効果はどうかを見てみましょう。先ずはマスクの性能に関してです。
文献的に見ると(Radonovich Jr. LJ, et al. The respiratory protection effectiveness clinical trial (ResPECT): a cluster-randomized comparison of respirator and medical mask effectiveness against respiratory infections in healthcare personnel. BMC Infect Dis 2016;16:243)での実験では、Mマスクでほぼ90%のカット率となっています。興味深いことにさきに述べた「ためしてガッテン」での実験でも、顔との隙間を極力減らした正しい付け方をして、90%を超すカット率になった、適当に着用しているとカット率はすごく低い結果でした。同じような数値になっていることにびっくりしました。なかなかやるな!「ためしてガッテン」
問題は、マスクを着用すると感染を広げないようにできるかどうかです。
またまた出てきましたマスク博士MacIntyre先生!(MacIntyre CR, et al. Cluster randomized controlled trial to examine medical mask use as source control for people with respiratory illness. BMJ Open 2016;6:e012330) この研究は、呼吸器感染症に罹患した人をMマスクをする人のグループとしない人のグループとに振り分けて、家族内で感染が拡がるかどうかを検討したものです。結果は、統計的には有意ではないけれど、Mマスクをする人のグループでの感染率が低かったということです。

という訳で、マスクというものを再考してみました。皆さんが信じて疑わないマスクの効果、どうです?そうなんだあ!!でしょう。(笑い)個人的には、この程度の効果なら、マスク付けないで、自分の表情を子供たちに見せ安心してもらう方が得られるものが大きいような・・・

長々とお付き合いありがとうございました。
結論!!
一.付けるならきちんと付けようサージカルマスク
二.漫然と付けても意味なしサージカルマスク、リスク評価がとっても大事

皆さんは感染対策のためにはマスクよりももっと大事なことがある事を忘れてはいないでしょうか?
それは手洗い hand-wash、手指衛生hand-hygieneです。先に紹介したSaunders-Hastings Pらのメタアナリシスでは、手洗いや手指衛生は有意に感染を防ぐという結果になっています。この手洗いや手指衛生にはかなり強い医学的根拠があります。またの機会に紹介したいと思います。

マスクを否定するわけではありません。
適正に使おうと考えるステップにしていただけると嬉しいです。(小松)

2018/05/25

第2回子どものための連携カンファレンスを開催しました

第2回の子どものための連携カンファレンス」を5月18日に開催しました。
今回のテーマは「ペアレント・トレーニング」で、地元の小学校の先生方や舞鶴支援学校の先生方、そして舞鶴こども療育センターのスタッフの方、当院精神科医など約25名の方の参加がありました。
講師は、当院小児科の瑞木匡先生にしてもらいました。私自身の復習がてら、ちょっと話をまとめてみました。
第2回子どものための連携カンファレンス

ペアレント・トレーニングとは、より良い子育てをし、子どもの好ましい行動を増やし好ましくない行動を減らすために親が勉強や訓練をしてもらうことで、ペアレント(親)としてもトレーニング(訓練)である。発達障害児の子育てに絡めて言及されたりすることが多いけれど、そういう限定的なものではなくて、子どもの好ましい発達を促したり、個性を伸ばすために全ての親に必要なこと。親の不適切な関わりが続くと、子どもが自信を無くし、できることもできなくなる、消極的な子になる、親が嫌いになり親のいう事を聞かなくなる、ひいては二次障害に発展してしまうこともある。二次障害とは、極端な反抗、暴力、家出、反社会的犯罪行動、反抗挑戦性障害などの外在化障害や、不安、気分の落ち込み、強迫症状、対人恐怖、引きこもり、不安障害、気分障害、強迫性障害などの内在化障害である。そこでまず理解することは、子どもとの関わりの悪循環と良循環である。子どもが好ましくない行動をする⇒親が頭ごなしに怒る⇒子どもは自信をなくす、反抗だけする、反省できない⇒親はがっかりし、表情に出る⇒子どもの好ましくない行動が増える、というのが悪い循環、子どもが好ましい行動をする⇒褒める⇒自信を持つ、良い行動をすると褒美があることを理解する⇒子どもの好ましい行動が増える、というのが良い循環である。つまり良い循環を促進し、子どもの好ましい行動を増やし、悪い循環にはブレーキをかけ、子どもの好ましくない行動を減らすように親としての訓練を積むこととなる。
先ず、悪循環にブレーキをかけるためのステップ1は、よく言われる「怒るのではなく叱る。」叱るときは、穏やかに、近寄って面と向かって、端的に。ステップ2は、叱る回数を減らすこと。例えると、ドラえもんののび太君母のように、ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ・・・と言わない。叱る回数を減らすためにどうするか?子どもの行動を、3っに分類する。つまり、好ましい行動、好ましくない行動、絶対に止めさせないといけない行動(他人に対する暴力、自傷行為、破壊行動など)。叱るのは、絶対に止めさせないといけない行動にとどめる。確かに、叱るか叱らないかと言う線引きは、親の価値観によって大きく変わってしまっては良くないので、この3分類はわかりやすいものですね。
次に良い循環にアクセルを踏むためのステップ3は、叱るよりも回数多く褒める、褒め方のレパートリーを予め考えておく、人前で褒める、言い方を変えると褒めたことになる、例えば「自分一人で片付けが出来ない」→「一緒にやったらできた!」。ステップ4は、褒めるために目標設定する。普通は目標設定して、達成出来たら褒めるわけですが、それだとどうしても目標が高くなりがち、だから切り替えて褒めるために出来るだけ低い目標を設定するというものです。ステップ5は、目標を達成した場合のご褒美を設定する。例えば、その日の宿題が全部できたら、ゲームを30分やっても良い、など。ん!??と思いますよね。ご褒美が目的で、何かを頑張るって、それでいいんだろうか??って。でも案外これって物事を頑張っていくためのモチベーションの本質を突いているような。卑近なご褒美が目的で始めたような事でも、一つ一つの事を成し遂げた達成感や自分の成長を感じられる充実感を味わううちにご褒美の事はどうでもよくなって、そのことをできるようになる喜び、そのこと自体が目的になっていくことってよくありますしね。
ステップ6は、行動を分析する。つまりある反応や結果をもたらすきっかけや原因を一緒に考え、より良い行動ができるための環境設定をするということです。例えば、テレビが見たいから宿題をしない、朝が起きられないから学校に遅れる、というのであれば、きっかけ・原因の部分を変えていくための環境を整えるというわけです。そしてステップ7は、Don’tではなくLet’sで声掛けするということです。行動を否定するのではなく、促しで良い行動をとるようにしていくということです。
どうでしょう?なかなか「言うは易し行うは難し」ですね。質問コーナーでは、非常に本質的で、なおかつ誰もがそう感じるような質問が出ました。「ひとの子だったらそういう風にも出来るんですが、いざ自分の子だったらすぐ怒ってしまうのはどうしてでしょう?」う~ん・・・確かに。何となく他人の事だと冷静でいられるけれど、自分の事だと感情が先走ってしまうような遠近法の問題なのでしょうか。
今私が読んでいる「こどものための精神医学」(滝川一廣著)という著作の中に私なりの解答を見つけました。少し長いですが、引用してみます。「高度成長期の60年代、産業構造の変化とともに人びとの生活スタイルが変わっていくなかで「家庭機能の低下」「親子関係の希薄化」が進んでいるという危惧が識者によってしばしば語られた。これは実際に進んでいる事態とは逆さまの誤った認識だったけれども、ひとつには子育てにおける家庭や親子関係の役割が強く認識されるようになったこと、もうひとつには子育ての合格ラインが上がったこと、そこから出てきた言説だった。」少し言葉を加えると、子育てから社会の公共的・共同的な営みと言う側面がそぎ落ちて、親の私的な営みとなり、子育ての自由性がとても高くなって、親密な親子関係の形成とそれを介した濃密な子育てができるようになったが、反面子育てが親の肩にかかる部分がおおくなってしまった。要するにこれは自分の子育てに社会からのプレッシャーが大きくなってしまったためであると説明できるのではないでしょうか。
良くも悪くもそういう社会に生きていることだけは事実です。上がってしまった子育てのハードルを越えられるように親として努力しないといけないのかも知れません。ただ、子育ての合格ラインという言い方とその捉え方にも注意しなければいけないような気がします。子育てに合格や不合格というハンコはなかなか押せないということはすぐにご理解いただけるでしょう。この著作のなかではもちろんそういう意味合いだけで用いられていないことはすぐにわかります。本論を大きく外れてしまいますので、今回はこれまでにとどめておきます。
さて、二番目の話題は、子育てをしていく中で子どもの長所・欠点という捉え方ではなくて、特性として理解していくことが大事であるという話がありました。瑞木匡先生が言うには、六つの特性を考えてみましょうとのことです。すなわち、こだわり、コミュニケーション力、社会性、多動性、衝動性、不注意の六つです。お分かりのように前三者は自閉症スペクトラムで、後三者は注意欠陥多動性障害で問題となるものです。しかし、これはあくまで良し悪しをいうものではなくて、誰しもが持っている特性として理解していく事が重要だとのことです。例えばこだわりが人よりも強い場合、悪く言うと頑迷、良く言うと物事を深化できる、というようなものです。あることで名を馳せているようなひとは絶対こういう側面がありますしね。皆さんも、自分の特性について考えてみてはいかがでしょうか。
いろんな子育て論や方法がありますが、結局自分を育てる(自分が成長する)ことですね。そう思うと楽になりませんか? 
なお、内容に関しては齟齬があってはいけないので、瑞木匡先生に添削してもらっています。
(小松)
2018/05/13

2018年5月12日第12回まいづる新生児蘇生法(NCPR)講習会開催!

昨日5月12日土曜日に第12回まいづる新生児蘇生法(NCPR)講習会を行いました。この講習会は日本周産期・新生児医学会認定の「専門(A)コースの講習会です。専門(A)コースは気管挿管や薬物投与を含めた臨床知識と実技で構成される、高度な新生児蘇生法を習得するためのコースで、周産期医療機関の医師、看護師、助産師や救急救命士などの方を対象としています。
お昼の12時から終わるのは午後5時過ぎになる、結構ハードな講習会です。今回は、医師1名、看護師6名、助産師6名、救急救命士3名の合計16名の方が参加されました。何と遠くは愛知県豊田市から参加されていましたし、大阪から3名、尼崎から1名と遠方から参加された方もおられました。舞鶴市の救急隊からは、前回に続いての参加があり、地元としては大変嬉しく、また心強く感じます。
IMG_1939_convert_20180513191651.jpg
実は、この講習会は私達舞鶴医療センターと舞鶴共済病院との連合軍で運営しています。周産期・小児医療に関しては仲が良いんです。インストラクターをされた舞鶴共済病院小児科の増田淳司先生、舞鶴医療センター小児科の瑞木匡先生、看護師の濱中温子さん、ご苦労様でした。
長時間にも関わらず、皆さん真剣に実習に取り組んでいました。やはり難関なのはマスク&バッグによる人工換気と気管挿管みたいですね。まあ、気管挿管って医師以外がする機会はないですからね。私小松はインストラクター補助として参加していますが、やはり一番感じるのは、「経験が邪魔をする」ということですね。NCPRは、アルゴリズムに則って処置を進めていく事が、赤ちゃんの蘇生にとって最もスムーズなかつ確実な方途であるので、先ずこの通りにするという事が求められますが、様々な経験をしてきていると知らないうちに色んな自己流と言うか手垢というかが自分のやり方・考え方に滲みこんでいて、それがしょっちゅう顔を出して邪魔をするので困ります。身体が勝手に動いて新しい知識では修正が効かないというか。ちょっと前の常識は、いまや非常識ということが結構あるので、そういう事を常に意識して、修正したり、ブラッシュアップしたりしないとダメだなって再認識させられる講習会です。
IMG_1940_convert_20180513191753.jpg
NCPRにこれまであまり触れてこられなかった方たちには大変緊張感のある講習会で、特に自分の施設以外で受けられた方にはとても貴重な経験になったようです。ちなみに舞鶴医療センターの小児科・産婦人科病棟のあるB3病棟にこの4月から新しく昇格で赴任された竹浦嘉子師長も悪戦苦闘しながらも頑張っていました(若手に教えを乞う師長~~!)。
IMG_1944_convert_20180513191839.jpg
まいづる新生児蘇生法(NCPR)講習会は、公開されていますし、参加費も結構お安くしています。どうぞどしどし参加して下さい。京都府の新生児死亡率が全国的にもあまり良くないから、周産期医療の整備をしなくてはいけないとかで、今京都府庁からも色んなアクションが起こされていますが、私はシステムがどうのこうのではなくて、こういう現場での知識・技術の普及と進歩こそが、地味だけれど確実に新生児死亡を少なくしていく道筋だと思っています。
こういう公開されたNCPR講習会には京都府の予算を取って来るぞ!! (小松)
2018/05/07

胃腸炎の脱水に関する最近の話題

胃腸炎の脱水に関しての勉強をしてみました

小児科医になってはや30年。最近感じるのは、感染症のうちほとんど経験しなくなったものがあることとウイルスの流行の季節感がずれてきたことです。激減した感染症と言うとやはり麻疹(はしか)と細菌性髄膜炎ですね。麻疹は、今でこそ全数報告となって最近でも100人規模の感染者があって大きくニュースに取り上げられていますが、小児科医になって3年目に全国的に結構大きな流行があって、たくさんの患者さんを診察した記憶、それこそ毎日何人かのはしかの患者さんを診た記憶があります。そして細菌性髄膜炎は、いわゆるヒブ(Hib)ワクチンと肺炎球菌ワクチンが定期接種となって、激減しました。舞鶴の地域では定期接種前までは年間2人位は罹患していたと思いますが、定期接種になってからはほぼほぼゼロですね。この辺の話はまた別の機会にしていきたいと思います。
ウイルスの流行の季節感というと、夏には手足口病、冬はインフルエンザなどが思い当たるでしょう。今回話題にするのはロタウイルスによる胃腸炎です。昔はこの病気は、「冬季白色便性下痢症」と言って、冬場に白っぽい下痢をするのが特徴の胃腸炎でしたが、最近は春先に流行しています。ロタが流行ると春が来たなあ、と感じるこの頃です。ああ、なんか切ない、トホホ・・
ワクチンの普及によって多くの感染症が激減したりして来た中で、このロタウイルスによる胃腸炎は、今現在も日常的に経験する感染症のうちで本当に油断のならないものの一つです(;_;)。皆さんご存知のようにこのロタウイルスにもワクチンがあります。その効果は目を見張るものがあります。かかっても軽症でまず入院になる程にはなりません。しかし問題は任意接種で、しかも高額です。2回あるいは3回飲むものとありますが、どちらも2万5千円以上かかってしまいます。[ちなみに任意接種というとほとんどの方が、接種は任意、つまり打っても打たなくても良い(ロタウイルスワクチンの場合は飲むのですが)と捉えておられると思いますが、接種が任意なのではなくて、接種は推奨されていて接種期間が任意、つまり医学的に定められた期間内であれば任意の時期に接種できるという意味なのです。]2〜3年前に舞鶴市の保健センターの方に尋ねたところ、接種率は4割程度だそうでした。皆さんはこの数字をどう思われますでしょうか?私は予想してたより結構高いなと思いました。なんせ2万5千円以上かかるのですから、子供さんたちの健康に対する意識の高さに感心しました。でも出来るだけ多くの子供達が飲んでほしい、それが流行を小さくし、自分の子ども達だけ(個人防御)でなく、周りの子ども達への流行拡大を防ぎや被害を少なくする(集団防御と言います)筋道だからです。もちろん全員が飲んでくれるとそれに越したことはないです。
さてこのロタウイルスによる胃腸炎、なぜ油断ならないかというと、数時間とかいう単位で状態が急に悪化することがあるからです。もう少し言葉を加えましょう。ウイルス性の胃腸炎は文字通り胃→腸の順に症状が出ることが多いです。胃の症状、つまり嘔吐で始まって、普通は数時間から半日もすると吐き気はましになって、腸の症状、つまり下痢になる、このタイミングになると発熱を伴ってくることが多いのですが、多少食欲が出て、少しずつ飲んだり食べたりできるようになる、という経過が多いです。実は始まりの吐き気・嘔吐の強い時間帯に急にしんどくなることはあまりなくて、この始まりの時間帯さえうまく乗り切ればあとは回復に向かうことが多いのです。しかしロタウイルスによる胃腸炎はこの後が問題です。いつまでたっても吐き気が取れなかったり、食べたり飲んだりができなかったり、下痢がものすごかったりする子がたまにいて、この子達が時間の単位で状態が悪くなることがあるのです。
こういう子を病院に連れて行くと、「脱水に気を付けて」とか「おしっこが出ないなら点滴が要ります」とか「機嫌が悪いようならもう一回連れてきて下さい」とか言われると思います。でもこれってたぶん意味が通じてないですよね。脱水に気を付けるとは???脱水にならないように水分をたくさん摂らせることなのか、脱水の症状が現れたら連れてきなさいということなのか、じゃあ脱水の症状ってどういう症状なんでしょう??あるいはおしっこが出ないなら点滴が必要ですと言われてもよく考えると元気な時でもそんな2時間や3時間おしっこが出ないことなんてよくありますし、「おしっこが出ない」というのは医者言葉の典型ですね。私はこのフレーズは絶対に使いません。夜の救急の仕事をしていると、昼間にクリニックの先生にそう言われたと言って下痢はしているものの普通に食べたり飲んだりできている元気な子を連れたお母さんが救急室に心配そうな表情で来られることがあります。点滴は必要ないですねと言ってもなかなか納得いただけず、かといって必要もないのに子供に針刺すのかというジレンマですね。そして機嫌が悪いようならって言われても、熱があって下痢してあんまり食べたり飲んだりできてない子が機嫌が良いわけないですしね。
そこで脱水の程度をわかりやすく、簡単な言葉で評価する術はないものでしょうか。実は脱水を評価するために20を超える指標が提唱されているのです。小児科の教科書にもいくつかあります。例えば体重の減少とか毛細血管再充満時間とかです。どれだけ体重が減ったかって難しいですよね。元々の元気な時のきっちりした体重を知っているお母さんやお父さんは少ないですしね。毛細血管再充満時間の説明は面倒くさいのでやめておきます。
というわけで、医療者でない方が子どもの脱水の程度を知る方法で、きちんと検証されたものがないかを探しました。今のところこれから話をするゴールドマン先生の点数表がたいへん理解しやすく、誰でも使えそうですので紹介します。[Goldman RD, et al. Validation of the clinical dehydration scale for children with acute gastroenteritis. Pediatrics. 2008 ;122(3):545-9. doi: 10.1542/peds.2007-3141.]
CDS.jpg
0点:脱水なし 、 1~4点:いくぶん脱水あり 、 5~8点:中等度以上の脱水あり

どうでしょう?お子さんを観察するだけでできそうではありませんか。ゴールドマン先生は5点以上を強い脱水としていますが、私的には3〜4点で黄色信号から赤信号に変わりそうなくらいのイメージです

さて、いざお子さんが胃腸炎になってしまったら、先ず何をすべきでしょう。よく言われるのは「水分を少しずつ上げて下さい」と言うことですね。では水分は何が良いのでしょうか。これまではWHO(世界保健機構)が推奨する組成の水分(経口補水液と言います)が一番だとされてきました。この組成の飲料は日本でも市販されていて、OS-1として知られています。水分を効率よく体内へ吸収するためには適当な濃度の塩分とブドウ糖が必要で、これを満たしたものがこの商品です。ちなみにこの商品の販売元と私は何の利害関係もありません。しかしこのOS-1は美味しくないんですよね、正直子ども達はあまり飲んでくれないことが多いんです。薬もそうですが、飲まないものは絶対に効きません。それで仕方ないのでスポーツ飲料を次善の策にしています。しかしこれはあくまで次善の策ですから、注意点のお話を追加するようにはしていますが、なかなか、先生がポ◯リ◯エッ◯でも良いって言った、となるから難儀です。でもこればっかり飲んでいると体のナトリウム濃度が下がって逆にすごくだるくなったり、ブドウ糖が多く含まれるので浸透圧によって下痢を悪化させたりするので注意が必要です。
そんな中最近注目すべき研究が行われました。これがなかなか面白いんです。世の中には偉い人がいるもので、こういうことを考えて、きちんと検証しようとする人がちゃんといるんですね。感心します。[Freedman SB, et al. Effect of Dilute Apple Juice and Preferred Fluids vs Electrolyte Maintenance Solution on Treatment Failure Among Children With Mild Gastroenteritis: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 May 10;315(18);1966-1974. ,PMID:27131100]これは、Journal of American Medical Association, 略してJAMAと言う非常に権威ある医学雑誌に掲載された論文です。最近はテレビドラマの影響なのか一般の方の中でもインパクトファクターという言葉が知られてきました。先日娘がいきなり「お父さん、インパクトファクターいくつある?」とか訊いてきたのにはびっくりしました。若干勘違いされている向きもないではないですが。ちなみに私は全部合わせても「10」位しかないのではないでしょうか。そこで調べてみるとJAMAのインパクトファクターは、「44.4」もあります!!
ちょっと話がそれましたが、この論文によると経口補水液よりも100%りんごジュースを水で2倍に薄めたものの方が成績が良かったと言うのです。確かにりんごジュースなら喜んで飲んでくれそうですものね。ただし論文というものは情緒的に読んではいけません。最後までしっかり読みましょうと言うことで、読んでみると。
•この研究の対象となったのは、生後6ヶ月から5歳までの軽度の脱水を伴った軽症胃腸炎の子どもで、平均年齢は28ヶ月です。医学における研究では、この対象が大事です。わかりやすく言うと中等症から重症の脱水を伴った胃腸炎にはこの結果は当てはめてはいけないということです。
•2倍希釈の100%りんごジュースあるいは他の好きな飲み物 vs 経口補水液
•アウトカムは、治療の失敗。これが重要です。どちらが優れているかではなくて、どちらが失敗しにくいか、なのです。失敗しにくければ優れているとも言えますが、失敗しにくい、イコール優れているということではないのです。アウトカム、難しい言葉ですが、研究の目的ですね。つまりこの研究のそもそもの目的はどちらが治療の失敗する割合が少ないかをはっきりさせるために計画されたということです。どちらが優れているかをはっきりさせようとするのであれば、それに見合った研究方法を取らなければいけないということです。この論文での治療の失敗とは、7日以内に次のことが生じた場合と定義されています。すなわち、点滴が必要になった、入院となった、予定外の再診、症状が長引いた、実際に本人をフォローして3%以上の体重減少あるいは明らかな脱水が認められた、こととなっています。
•経口補水液のグループでは、治療の失敗が25%で生じ、点滴が必要になったのは9%にのぼったが、ジュースのグループでは治療の失敗は16.7%で、点滴は2.5%にしか必要性が生じなかった。
•この研究はカナダから出されたものですが、実は北米では経口補水液がかなり高価で容易に入手しにくいという背景があるのです。こういう背景があるということが理解できていればこの研究目的やその意義もストンと腑に落ちるのですね。
結論としては、先進諸国では軽度の脱水を伴う軽症の胃腸炎の小児に対して、従来の経口補水液に替えて希釈リンゴジュースが適している
どうです?ちょっと難しかったですか。
ところで翻って日本には、お茶信仰的なものがありますよね。脱水にはお茶!みたいな。私が帰納法的に考えると、塩分ゼロで、利尿作用もあるし、NGだとは思うのですが、これも検証しなければいけないのでしょう。もしかして誰かもうやってるとか・・・・ (小松)